徒然帳

小説と、障害と、時々日常

噛みしめる味は、甘くてしょっぱかった

東京都にあるスターバックス、手話カフェをご存知だろうか

一時期ネットはもちろん、一部のテレビ番組でも取り上げられていたので知っている人も多いのではないだろうか

元々地域的に所用がないと行かないところだった為足を運ぶことはなかったが、つい先日、連れ合いが用事があると近くまで寄ったので、ついでにとばかりに足を運んだ

 

店内は普通のスタバと変わらない。けれど内装の至るところに『手話』がいた

そしてまた、店員さんとのやり取りも手話、いやジェスチャーや筆談がメインの会話になる

自分は仕事柄、挨拶程度の手話は分かるが、使う機会がなければ人間忘れてしまうものである。通じるか不安だった

 

けれどそれは、杞憂だった。むしろ良い変化だった

自分が『こんにちは』というと、店員さんの顔が華やいだ。本当に、花開く笑顔をこの目で見た

生き生きとした表情で、私と連れ合いに対して〝接客〟をした。それはとても楽しそうな様子で

 

恥ずかしながら、ドリンクを受け取った瞬間、私は泣き出しそうになった。実際泣いた。多分そろそろ歳なのだろう。まだ二十後半なのだが……

 

 

私事で恐縮だが、聴覚障害を持つ友人がいる。その人から、接客が難しくて諦めたと聞いたことがあった

また、仕事でも私はそういった方々に関わることが多い。耳が、言葉が聞こえないハンデは、私達が考える以上に大きいのだと日々痛感してしまう

 

けれどそのカフェでは、普通に接客がなされていた。業務が滞りなく行われていた。何一つ、他のスタバと変わらなかった。違うのは、店員さん達の会話が手話なだけ

ただ、それだけなのだ

なのに『それだけ』のはずの壁が大きく分厚いことを、一片でも知っている身としては、あの光景がとても(少なくとも日本では)偉業であり尊いものと感じざるを得ない

そう考えたら、感じたら、気づいたら涙が流れて止まらなくなってしまった

 

連れ合いよ、街中でいきなり困らせてすまない